保育士会のあゆみ

昭和31年に誕生

 全国保育士会結成に向けた動きは、昭和29年に始まりました。
 当時の保育士たちのおかれている状況を「保母会10年のあゆみ」でふり返ると次のように記されています。

「あの当時は期末手当もないし、昇給はわずかということで、"こんなことでは保母はいい仕事ができないのではないか、保母の身分をもう少しよくしなければ、保育内容を高めることや子どもを守るとはいえない"というように、保母の身分保障を改善したい、社会的な地位を高めたい、研究の場も欲しい、とただひたすら思いつづけました。」

 この当時は、保育士の給与は月額平均7,200円(昭和31年)、期末手当ゼロという状態でした。超勤手当、通勤手当などもありませんでした。(注)
 こうした状況のなか、「子どもたちのまことの幸福を守るために保母は手をつなぎ、たちあがろう!」という呼びかけに賛同した人たちによって、昭和31年7月に「保母会」(「全社協保母会」と呼ばれました)として結実しました。
 その後、全社協保母会は、全国保母会、全国保育士会として名前を変えながらも今日に至っています。

(注)労働省(当時)「毎月勤労統計」による昭和31年の常用労働者の「現金給与総額」は20,201円であった。

これまでの制度的課題解決に向けた取り組み

 結成以来、社会的な地位向上をはかるため、保育士給与のベースアップや期末手当の実現のための運動、受持児童数等の最低基準改善のための運動、乳幼児処遇の改善などの運動を、結集して続けてきました。
 保育所運営費における保育士の期末手当の積算額は、ゼロ→ 0.5カ月→ 1カ月→ 2カ月→ 3カ月となり、昭和37年度から国家公務員に準ずることになりました。また、昭和37年には3歳未満児9人に1人であった受持人数が、昭和42年には6人に1人となりました。また、平成10年からは乳児保育が一般化され、最低基準に乳児おおむね3人に1人の配置と記載されました。

 昭和40年代後半から50年代前半にかけては専門職としての社会的位置づけを得るため、資格制度の確立に向けた、いわゆる「保育士免許法」の制定をめざした活動を展開していました。
 その後、平成10年度に児童福祉法施行令の改正が行われ、平成11年度4月より男女共通名称としての「保育士」が創設されることとなりました。本会も、この改正にあわせて、平成11年度に「全国保母会」から現在の「全国保育士会」と組織名称を変更しました。
 このころから、地域社会における子育て支援の役割・業務が保育所や保育士に求められてきた社会状況を背景に、保育士のもつ社会的信用に乗じて名称を詐称したり、乳幼児への虐待や不適切な保育を行ったりするなどの悪質な認可外保育施設への対策として、保育士資格を法定化して資格制度の整備をはかる動きが高まりました。その際には、全国保育士会は全国保育協議会とともに法成立に向け全国的な活動を展開し、保育士の法定化(国家資格化)のための児童福祉法の改正にむけて尽力しました。こうした取り組みの末、平成13年11月30日の児童福祉法の一部を改正する法律の制定・公布(平成15年11月29日施行)により保育士は国家資格となりました。

 昭和50年代後半からは、最低基準上の職員配置の問題とともに、「主任保育士」の役割・機能に着目して、昭和57年度には「主任保母についての実態調査」を実施し、『主任保母の職務内容を考える』(昭和57年度)や『主任保母ハンドブック』(昭和62年度)をまとめました。
同時に、予算対策活動を通じてクラス担任をしない主任保育士の専任配置の推進に取り組み、現在では、特別保育事業を実施している全保育所に主任保育士の配置が可能となりました。
 平成15年度から、「主任保育士専任配置の推進と制度的位置づけの明確化」に向けた運動を展開し、その結果、「特別保育事業等複数実施保育所」を実施する保育所で専任配置ができるようになりました。

 平成11年度に保育所保育の拠り所とされている「保育所保育指針」の改訂が行われた際には、指針の利用者である現場の立場から「意見」や「提言」を発信し、よりよい改訂をめざしました。さらに、改訂「保育所保育指針」の通知後、いち早く『ハンディー保育所保育指針』を刊行し、研究大会や研修会を通じて、12年度からの施行に向けた実践の充実につなげるための取り組みをはかりました。

 平成20年3月28日に、「保育所保育指針」は3回目の見直しが行われ、それまでの局長通知から厚生労働大臣による告示(遵守すべき法令の位置づけ)となりました。告示化にともない、子ども、保護者や地域の実情に応じ、それぞれの保育所が創意工夫し保育を行えるように、内容の大綱化がはかられました。
 この改定への対応として、本会では「保育所保育指針」改定にむけた厚生労働省検討会に、御園愛子顧問(当時会長)が副座長として参画し、意見を述べました。また、「保育所保育指針検討委員会」を設置して、保育実践にもとづく検討を行いました。
改定後も、保育現場がスムーズに新指針による保育に取り組めるよう、平成20年度に『実践から学ぶ保育所保育指針』を発刊しました。また、改定の理念と理解を広めるために研修会やセミナーを開催しました。

 少子化対策が国の最重要課題とされるなかで、平成22年3月より「子ども・子育て新システム検討会議」においてその具現化のための検討がすすめられ、全国保育士会としては、平成22年9月より開始された『こども指針(仮称)ワーキングチーム』に御園愛子顧問(当時会長)が構成員として参画し、保育士の視点から養護と教育の一体的な提供のあるべき姿や、子どもの育ちを保障するために必要な職員の処遇改善等について主張してきました。
 こうした国における新たな子ども・子育てにかかる制度の検討を経て、子ども・子育て関連3法(「就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律の一部を改正する法律」、「子ども・子育て支援法」、「子ども・子育て支援法及び認定こども園法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」)の成立に至りました(平成24年8月10日成立、同22日公布)。

 子ども・子育て関連3法の成立を受け、厚生労働省と文部科学省との合同の検討会議にて、新たな幼保連携型認定こども園における教育・保育等の内容に関する検討がすすめられました。第3回検討会議(平成25年9月27日)では関係団体ヒアリングが実施され、全国保育協議会副会長および全国保育士会会長として上村初美顧問(当時会長)が出席し、保育には教育が含まれており、保育は養護と教育が一体となって行われていることや、保護者支援・地域の子育て支援といった福祉の役割・機能を盛り込むべきであること等について、保育現場に携わる者の立場から意見を述べました。この検討結果は、平成26年4月30日に、「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」として告示されました。
 その後、同要領の具体的内容を解説した、「幼保連携型認定こども園教育・保育要領解説」が平成26年12月に示され、平成27年4月に、子ども・子育て支援新制度が施行されました。

 平成27年度には、保育所保育指針の4回目の改定検討が着手されました。社会保障審議会児童部会保育専門委員会の関係団体ヒアリングには、本会上村初美顧問(当時会長)が出席し、意見を表明しました。同委員会には、本会村松幹子会長(当時副会長)が、自身の保育所の所長という立場で参画し、各ブロックからの意見を集約した全国保育協議会ならびに全国保育士会としての意見を踏まえ、発言しました。平成29年3月31日に改定保育所保育指針が告示(平成30年4月施行)され、本会が主張した質の高い保育につながる内容が盛り込まれました。
 改定後は、改定内容を周知すべく、全社協出版部より、全国保育士会編にて『改定保育所保育指針・解説を読む』を発刊。 平成29年度には「改定保育所保育指針研修会」「改定保育所保育指針『解説書』研修会」、平成30年度には「改定保育所保育指針研修会」を実施しました。

 平成27年度以降、待機児童解消や保育士の処遇改善などが社会的な問題として大きく報道されました。国は待機児童解消のため、保育士をはじめとする保育の担い手を確保すべく、朝夕の保育士配置の要件弾力化、幼稚園教諭および小学校教諭等の活用等を可能としました(「保育の担い手確保に向けた緊急的なとりまとめ」厚生労働省 保育士等確保対策検討会 平成27年12月4日開催)。
 このとりまとめの策定段階において、本会は全国保育協議会とともに、保育士不足への対応は、要件の緩和ではなく処遇改善によって保育士有資格者の確保をすすめるべきであるとの意見をヒアリングにて発言しました。その際、厚生労働省から提案された策に対して、現行の緊急的な要件緩和にとどめること等も求めました。この意見を受けたかたちで、同とりまとめには「あくまでも待機児童を解消し、受け皿拡大が一段落するまでの緊急的・時限的な対応とする」と明記されました。

 令和元年10月より幼児教育・保育の無償化が行われました。無償化にあたり、「子ども・子育て会議(第38回)」(平成30年11月6日)においては「幼児教育無償化にかかる食材料費の取扱いについて」が出され、「保護者から実費として徴収している通園送迎費、食材料費、行事費等の経費については、無償化の対象から除く」という方向性が示されました。「子ども・子育て会議(第40回)」(平成30年11月30日)では、幼児教育無償化にともなう、「食材料費(副食費)の取扱いに関する方向性(案)」が示され、2号認定子どもの「副食費」については、現在の主食費の負担方法を基本とし、主食費と副食費を合わせて「施設による実費徴収」とすることが示されました。本会は、「保育における食の位置づけを維持」等を求め、全国保育協議会とともに、平成30年12月18日~20日に要望活動を実施しました。

 平成30年度は、厚生労働省「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会(第4回)」に本会北野久美副会長が関係者ヒアリングに出席し、保育の質の向上のための取り組み、多様なニーズへの対応、自己評価にかかる本会の取り組みについて説明を行いました。
令和元年度は、保育の質の向上をはかるため、「保育所等における保育の質の確保・向上に関する検討会」において、「保育所における自己評価ガイドライン」の改訂が行われました(令和2年4月1日適用)。この検討会の下に設置された作業チームに本会村松幹子会長がたかくさ保育園園長の立場で参画し、保育現場の立場から協議に参加しました。作業チームでの検討を経て、保育所における自己評価ガイドラインの改訂や、「子どもを中心に保育に実践を考える~保育所保育指針に基づく保育の質の向上に向けた実践事例集」がの発行されました。

 平成29年度は、「保育士養成課程等検討会」および「保育所児童保育要録の見直し検討会」に本会村松幹子会長(当時副会長)が参画し、本会各ブロックからの意見および本会制度・保育内容研究部で行った調査結果をとりまとめ、意見を述べる等の提言活動を行いました。これにより、保育現場の意見を反映した見直しにつなげることができました。
 平成31年2月に内閣府が開催した、各分野で活躍する女性6名と片山さつき氏(当時女性活躍担当大臣・男女共同参画担当大臣)が意見交換を行う「働く女性との意見交換」に本会上村初美顧問(当時会長)が出席し、働く女性を含む社会の働き手を支える保育士の役割と負担が大きくなっていることの社会的な認知を高め、社会全体で子育てをしていくための環境づくり、保育人材確保と労働環境および処遇改善、社会的地位向上等をすすめていくことが必要であると意見を述べました。
 令和2年には、厚生労働省開催「保育の現場・職業の魅力向上検討会」第3回における関係者ヒアリングに、本会村松幹子会長、北野久美副会長が出席しました。保育の魅力ややりがい、発信の取り組み事例等を報告するとともに、「保育の日」の創設を通じて保育の良さを国民にご理解いただきたいとの意見を述べました。

 令和4年度には、厚生労働省が開催する「保育士養成課程検討会」に、本会北野久美副会長が委員として参画しています。第1回検討会では、幼稚園教諭免許状を有する者の保育士資格取得の特例について、「幼保連携型認定こども園における保育教諭としての勤務経験を2年かつ2,880時間以上有する職員については、取得すべき8単位のうち更に2単位を取得したものとみなす」等の案が示されました。これに対し、要件となっている勤務経験の時間だけでは、乳児保育について十分な経験を得られていない可能性があり、乳児保育の単位を減ずることには懸念がある、更なる特例の対象は幼保連携型認定こども園で働く保育教諭に限らなくてもよいのではないか等の意見を述べました。

新型コロナウイルス感染症への対応

 令和2年早々より新型コロナウイルス感染症が流行しはじめ、4月に緊急事態宣言が発出されました。保育所・認定こども園は緊急事態宣言下においても開所し続け、感染対策を講じるとともにあらためて保育のあり方を考え、適宜見直し、創意工夫をしながら保育を実践してきました。
 本会においては、これまでのように参集型の部会・委員会や研修会が実施できず、事業計画どおりの事業の遂行は困難となるなか、「事業推進の基本方針」を策定し(令和2年6月19日、9月23日)、事業を展開しました。
 具体的には、コロナ禍における情報発信の強化に取り組み、委員ニュースや『保育士会だより』等の内容をさらに充実させ、新型コロナウイルス感染症を踏まえた内容を盛り込んで発信しました。
 また、全国保育協議会とも連携し二度の緊急アンケートを実施し、緊急事態宣言後の対応と課題や保育士等職員への支援、登園自粛した子ども・保護者への支援、コロナ禍における保育実践等について、現状の把握と情報を共有しました。その結果をもって本会正副会長が厚生労働省に結果報告を行うとともに、コロナ禍の保育現場の状況について意見交換を実施しました。
 さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止をはかるため、各種会議のほか研修会をWebにより開催し、多くの会員の参加を得ました。
 令和4年度には、新型コロナウイルス感染症の流行下で貧困問題が深刻な課題となるなか、パンフレット「保育士・保育教諭として、子どもの貧困問題を考える ~質の高い保育実践のために~」の内容を見直し、6月に改訂版を発刊しました。

「全国保育士会倫理綱領」の策定

 保育士の国家資格化の後に、新たに役割・業務とされた「保護者への保育指導」等の事項や、求められる高い倫理性に関する事項等の現任保育士への定着をはかるために平成15年2月に「全国保育士会倫理綱領」を策定しました。倫理綱領は、保育士等一人ひとりの行動規範を明らかにしたものであり、専門職として果たすべき役割を社会に示したものです。
 また、一人ひとりの保育士等が、倫理綱領を理解し、自らの行動指標として日々の実践に活かせるよう『全国保育士会倫理綱領ガイドブック』を発行しました(平成15年度)。本ガイドブックは、平成21年の保育所保育指針の改定(告示化)を受け、内容を見直し、平成21年度に『改訂版全国保育士会倫理綱領ガイドブック』として発行、平成30年4月適用の新たな保育所保育指針および幼保連携型認定こども園教育・保育要領をうけて平成30年3月に『改訂2版全国保育士会倫理綱領ガイドブック』を発行しています。

保育士・保育教諭による実践研究の推進

 全国保育士会は「保育士の仕事は、人格形成期にある乳幼児の保育という大切な仕事」という考えのもとに、これまで研究・研修を積み重ねてきました。
 昭和42年度より「全国保母研究大会」、昭和49年度より「東西日本保母研修会」を、全国の保育士の交流や保育内容の向上をめざして、毎年開催しており、これは現在も「全国保育士会研究大会」、「全国保育士研修会」として継続されています。

 昭和41年には、保育士の実践をもとに保育内容を高める指針となる「保育所保育要領」をまとめました。
 また、昭和52年度には、保育士の専門性の確立を保育現場からの視点で展開するために『保育所保育要領』の改訂版を刊行しました。

 昭和43年からは、都道府県・指定都市保育士会への委託研究を実施して、保育者自らの手による研究活動の活性化に取り組みました。この委託研究は、平成3年度から全国保育士会研究大会を発表の場とする実践研究論文集『全国保育士会研究紀要』に引き継がれ、今日においては、全国各地の保育者が主体となった実践研究の基盤となっています。
 この『全国保育士会研究紀要』は、令和3年度には第31号を刊行しました。

 昭和62年には、本会結成30周年を機に、念願であった主任保育士の系統的な現任訓練による専門性の確立に向けた実績づくりを目的に、「主任保育士特別講座」をスタートさせました。今日までに、2,000名を超える修了生が各地で保育のリーダーとして活躍しています。同講座は、平成27年の子ども・子育て支援新制度の施行により、「幼保連携型認定こども園」に「保育教諭」(保育士資格と幼稚園教諭免許の併有が求められる職種)が新設されたことを踏まえ、名称を「主任保育士・主幹保育教諭特別講座」に改称しています。同講座は令和4年度で第34期を迎えています。新型コロナウイルス感染症の影響により、令和3年度、令和4年度はオンラインも活用して実施しています。
 また、主任保育士・主幹保育教諭には、自己の専門性の向上とともに、組織の職員一人ひとりが誇りとやりがいをもって働き続けられるような職場環境づくりを行う「保育スーパーバイザー」としての役割が期待されることから、「主任保育士・主幹保育教諭特別講座」のリカレント研修として「保育スーパーバイザー養成研修会」を平成16年から開催しています。

研究実績・成果の発信

 「主任保育士・主幹保育教諭特別講座」の実施や『全国保育士会研究紀要』の発行等の取り組みによって本会が保有する論文は2,100本を超えています。
 そこで、保育現場におけるさらなる実践の向上とその発信に資するため、平成29年4月に、最近10年間の806本の論文から厳選した17本を『806の研究から厳選!! 保育実践における研究論文集』として編纂・刊行しました。

保育士・保育教諭の研修の体系化

 国家資格となった保育士にどのような専門性が必要なのかという問題意識に立ち、保育士に必要な研修内容や研修レベルを体系化し、計画的に研修事業を展開していくため、平成15年度より、「保育士の研修体系」の確立に向けて検討をすすめてきました。この検討内容を、平成18年度に『保育士の研修体系~保育士の階層別に求められる専門性~』としてとりまとめました。
 その後、平成23年の改訂版を経て、平成29年度は、保育所保育指針および幼保連携型認定こども園教育・保育要領の改定(改訂)や社会情勢の変化をふまえ、『保育士・保育教諭の研修体系(平成30年3月 改訂2版)』をとりまとめました。

保育士のキャリアパスの構築に向けた取り組み

 保育士の平均勤続年数は7.5年と短く(平成21年賃金構造基本統計調査 厚生労働省[平成29年の同調査では7.7年])、自らの将来像を描きながら働くことが難しい状況にあることから、保育現場で経験を積み、研修受講により専門性を高めた保育士を「専門保育士(仮称)」として位置付けることなどを盛り込んだ「保育士のキャリアパスの構築に向けて」を平成23年12月に打ち出しました。
その後、平成27年度には、「保育士等のキャリアアップ検討特別委員会」を設置し、国における保育士のキャリアパスの構築状況も視野に入れつつ、保育士が自らの専門性を向上させながら、誇りとやりがいを持って働き続けることができる環境構築の実現に向けた検討を重ねました。
 平成28年12月には、厚生労働省「保育士のキャリアパスに係る研修体系等の構築に関する調査研究協力者会議」最終取りまとめが公表され、本会が提言した、「専門保育士(仮称)」の専門分野をもとに、8分野が示されました。その後、平成29年度の公定価格には、技能・経験を積んだ職員に対する処遇改善のための加算(処遇改善等加算Ⅱ)が創設され、それに関連して厚生労働省は、保育現場におけるリーダー的職員等に対する研修内容や研修の実施方法等について定めた「保育士等キャリアアップ研修ガイドライン」に関する通知を発出しています。
 本会では、平成29年6月に、前記特別委員会報告書「保育士・保育教諭が誇りとやりがいを持って働き続けられる、新たなキャリアアップの道筋について」をとりまとめ、キャリアアップにおける階層や期待される保育士・保育教諭像、業務に必要な知識と技術等を整理しました。
 平成29年11月には、保育士・保育教諭等が、自己の研修修了済分野等の情報を管理し、研修の受講状況を客観的に説明するためのツールとして、『保育士等キャリアアップ研修ハンドブック』を全国保育士会編にて、作成しました。本ツールは、前記の厚生労働省がすすめるキャリアアップ研修と、全国保育士会が体系化したキャリアアップ研修のいずれにも対応するものです。
 保育士・保育教諭のキャリアアップの仕組みの提言を行い、もって、保育士・保育教諭の社会的評価の向上につなげることをめざしています。

食育の推進

 保育所給食のさらなる充実発展をめざし、昭和53年に、本会のなかに食事担当者の研究組織を発足し、研修会を開始しました。その後、平成9年には、本会総務部のなかに「給食研究委員会」を位置づけ、研修会の開催や調査研究活動に取り組みました。平成21年度に改正された「保育所保育指針」では「食育の推進」が明記されたことから、名称を「食育推進委員会」に変更、平成24年度には、より充実した食育の推進のために『全国保育士会食育推進ビジョン』を策定し、現在、その普及、推進に取り組んでいます。
 また、全国保育士会では、「子ども一人ひとりの発達や健康状態等に合った食事を提供できる」、「食育活動を促進できる」等の点から、自園調理の優位性を主張し続けています。
 平成28年6月に、保育関係者だけでなく、地域住民や保護者にも自園調理の優位性を発信するツールとして、パンフレット「食べることは生きること」を作成しました(平成29年一部改訂)。
 平成29年度は、構造改革特区での取り組みとして平成16年度よりすすめられている「公立保育所における3歳未満児への給食外部搬入」について、構造改革特区 評価・調査委員会において、評価および全国展開の可否についての検討がすすめられていました。本会では、「子ども一人ひとりの発達や、その日・その時の健康状態等にあった食事を提供できる」、「食育活動を促進できる」といった点から、自園調理の優位性をふまえ、外部搬入に断固反対の姿勢を示し続けてきており、平成29 年8 月8 日には、前述の内容をとりまとめ、当該委員会あてに、全国保育協議会と連名の意見書を提出しました。その結果、平成30年3月22日に開催の当該委員会において、外部搬入による食事提供のリスク低減等を含む各種弊害の解消や「子育て安心プラン」の推進状況も踏まえ、2021年度までにあらためて評価を行うこととされました。
 令和元年度、「子ども・子育て会議(第44回)」(8月9日)において、「新制度施行後5年の見直しに係る検討について」の論点のひとつとして、「民間保育所等における0~2歳児の給食の外部搬入規制緩和の要否」が提示されたことを受け、全保協とともに(委員として参画している全保協森田信司副会長より)断固反対の意見表明を行いました。そして、令和元年12月10日に公表された「子ども・子育て支援新制度施行後5年の見直しに係る対応方針について」では、本会の主張が認められ、「給食の外部搬入の更なる拡大については、質の観点からの懸念も示されているため、現時点においては方針を決定するのは時期尚早であり、見直しを行わないこととすべきである」とされました。また、食育推進評価専門委員会に北川三和子氏(平成27~30年度食育推進委員会運営委員会委員長)が出席し、第4次食育推進計画策定に向けた動きのなかで、保育所・認定こども園における食育の取り組みを発言することで、乳幼児期の食の重要性を発信しました。本会では、「食育の『言語化』に関する検討特別委員会」を設置し、保育所保育指針および幼保連携型認定こども園教育・保育要領で示された食育の推進に関する内容を、具体的な実践に照らして言語化した報告書、「子どもの育ちを支える食~保育所等における「食育」の言語化~」を作成しました。

保育士の資質向上と保育内容の充実強化に向けた取り組み

 保育者の資質の向上や保育の充実強化をめざして、平成7年度に『保育日誌の書き方・活かし方』、平成10年度には環境に着目した事例集『環境ってなんだろう』、平成11年度には日常の保育活動の充実強化に向けて『保育に活かせる事例集』、平成13年度には、子育て相談の記録用紙等を例示した『記録のポイント』、平成17年度には「保育所における障害のある子ども、医療的ケアを要する子どもへの対応事例集」を作成しました。
さらに、平成17年度より保護者と保育所とのパートナーシップ構築の具体化に向けた「保育の個別計画」の様式の検討を行い、平成20年度に書籍『質を高める 保育の個別計画』を作成しました。
 その後、平成21年4月より改定施行された保育所保育指針において、3歳未満児については一人ひとりの子どもの個別的な計画を作成することとされました。このことに伴い、本会では、「保育の個別計画」の普及をはかるため、同年より「保育の個別計画」研修会を開催しました。平成24年度には、各ブロックや都道府県・指定都市単位での研修を推進するための講師養成の研修を実施しました。平成25年度以降は、より一層の普及を図るため、各ブロックや都道府県・指定都市にて研修会を開催していくこととしました。書籍『質を高める 保育の個別計画』は、平成26年4月に、個別計画作成の意義やPDCAの流れを具体的に記した改訂版を発行しています。
 調査研究では、平成18年度に、在宅子育て家庭における課題や今後の方向性を明らかにするために、一時保育利用者・地域子育て支援センター利用者の実態とニーズについて調査を、平成21年には保育所児童保育要録に関する市町村の取り組み状況の把握や小学校との連携を推進するために、「保育所と小学校の連携に関する調査」を実施しました。
 そして平成30年度には、パンフレット「子どもの育ちの連続性を確保するために~保育所・認定こども園から小学校への円滑な接続をめざして~」を作成しました。

保育士の専門性の周知をはかる取り組み

 昭和53年の国際児童年には、保育所で育つ子どもたちの姿や、保育士の仕事等を広く一般に理解を深めてもらうために映画『はばたけ子どもたち-保育者の願いをこめて』を保育士によってつくりあげました。
 平成25年には保育所・認定こども園で行っている養護と教育が一体となった保育について、保護者等に理解していただけるようわかりやすく保育所保育を解説したDVD「保育所・認定こども園は、命を育み、学ぶ意欲を育てます。~保育の解説DVD~」を作成しました(平成29年一部改訂)。
 令和2年には、保育士の職業の魅力発信や魅力ある職場づくりの取り組みを推進するため、厚生労働省「保育の現場・職業の魅力向上検討会」が開催され、第3回において本会村松幹子会長、北野久美副会長が関係者ヒアリングに出席し、保育士の職業の魅力、専門性やその発信方法等について提言を行い、保育の担い手確保に向けて、国のすすめる施策の検討に寄与しました。

 昭和56年度に、社会的課題となったベビーホテル問題を契機に、延長保育・夜間保育・産休あけ保育などの保育ニーズの多様化に応えることを目的に特別保育対策委員会を設置し、保育者としての考え方をまとめ公表しました。
 その後、地域の子育てセンターとしての役割への期待に応えるために、平成56年度より「子育て電話相談」を実施し、「育児教室(育児講座)」を全国の保育所でモデル的に実施しました。また、保育所、保育者の役割を社会に広め、その必要性を認識してもらうことをねらいとした「一日保母(保育士)」運動を昭和57年度より実施しました。
 平成4年度には乳児期の食事の重要性への認識をどう促すかに視点を当てた、冊子『いそがしいおかあさんのために(楽しい離乳食の手引き)』を作成し、平成13年度には、その内容を改訂した『離乳食のQ&A』を作成しました。
 平成15年度には、保育士および保育所が地域の子育て支援の担い手であることを発信するために、そして地域とともに次世代育成に積極的に取り組むために、『ボランティア・保育体験等受け入れのすすめ~保育所のためのなるほどQ&A』を作成しました。
 平成20年度からは「保育士がこたえる子育てQ&A」を本会ホームページ上に公開しました。これは「子育てする喜びを実感できる社会づくり」の推進の一環として取り組んだもので、保護者から日ごろよく受ける育児相談や疑問に対して、保育士の専門性にもとづくアドバイスを広く社会に向けて発信していくために行っているものです。

 平成22年度から、地域子育て支援を推進する保育士を支援するため「全国保育士会保育士バッジ」を作成し、その普及に努めてきました。子育て支援の対象者に安心感を持っていただくとともに、保育士自身が保育士としての自覚と誇りを高めることにつなげてきました。平成27年度からは、保育教諭、看護師や栄養士、調理員などの全国保育士会会員がバッジを付けることができるよう位置付けを見直し、「全国保育士会会員バッジ」としました。

 平成27年4月には、社会保障と税の一体改革の柱の一つとして、平成24年8月に可決・成立した子ども・子育て関連3法をもとに、新たな制度が施行されました。これをうけ、本会は、適切な保育内容と保育環境の重要性に対する保護者や地域の理解を広げ、保育所・認定こども園にける保育士と地域社会とが一体となって一人ひとりの子どもの最善の利益を守る流れを生み出すために、保育士の専門性に裏付けられた保育実践を具体的にわかりやすく「発信」する取り組みを強化しています。
 平成28年6月には、平成27年度から検討を進めてきた「保育の言語化等検討特別委員会」の報告書をとりまとめました。報告書は、書籍『養護と教育が一体となった保育の言語化』として発行するとともに、保護者向けパンフレットならびに研修用ワークブックの作成に取り組み、社会全体からの保育の理解の促進に向けてさらなる発信と周知を進めました。

全国保育士会組織強化の取り組み

 全国保育士会は、子どもが豊かに育つ環境構築や保育の質の向上など、組織の目的の実現のためには、それを支える組織の強化が不可欠であるとの認識のもと、平成23年度に「組織のあり方に関する検討委員会」を設置し、ともに活動を進める会員の拡大、継続性のある事業展開と組織運営を支える人材育成、それを実現する財政基盤強化等に関する検討を行い、その結果を平成24年度にとりまとめました。とりまとめでは、「保育の質と専門性を高めるための保育士を中心とした職域組織として、組織の強化を図りながら、専門職組織としての道を切り拓いていく。」ことをめざすこととしました。
 この実現のための具体的方策の検討を平成25年度に行い、平成26年度第1回全国保育士会委員総会において、事業の充実と会費改定を柱とした「全国保育士会組織強化方策」を議決しました。
 この方策では、本会が目指すべき姿を「保育に携わるすべての専門職組織」「保育について協議・研鑽する場」として整理したうえで、今後、保育の質の向上、実践をふまえた制度改善等提言、会員数拡大、会員一人ひとりが明確となる会員名簿の整備等に取り組んでいくこととしています。このため、会費を平成27年度から、年額600円としました(平成26年度までは年額350円)。
 その後、平成28年度には、会員名簿の提出および会費納入の適正化を進め、会員一人ひとりの明確化と組織の基盤強化をはかりました。

年史の発刊等

 本会は、結成10周年、20周年、30周年、50周年の節目ごとに、それまでの本会の歴史や取り組み等をまとめた年史を発刊してきました。 平成28年には、本会結成60周年を迎えたことから、直近の10年間の活動をとりまとめた『ともにあゆむ未来へ~全国保育士会60周年記念10年小史』を発行しました。
 また、平成28年11月に開催した第50回全国保育士会研究大会の際に開催した全国保育士会60周年記念懇親会へご出席を賜った、名誉委員、顧問、元副会長、研究紀要指導講師、計11名の方からいただいたお祝い金をもとに、本会の組織旗を作成しました。